アメット

「これ、どう思う」

「スペックはいいね」

「いや、値段だよ」

「こんなものじゃないか」

「だよな」

 今、アイザックが眺めているパソコンは、決して安い代物ではない。

 頑張れば買えなくもない値段なので、これでいいのではないかと考えはじめる。

 一方シオンは手頃な値段のパソコンが見付からないらしく、困り果てている。

 何せ使うのがクローリアなので、高いのは避けたい。

「そっちは、どうだ」

「難しい」

「これくらいでいいんじゃないか? 仕事で使うわけではなく、プライベートでの使用だろう?」

「まあね」

「で、聞いていなかったが……何に使うんだ」

「勉強用」

「勉強?」

「物覚えが、いいんだよ」

 それに、クローリアは勉強に興味を持っている。

 折角この階層に来たのだから、興味があることをやらせてやりたい――というのが、シオンの考え。

 相手が最下層の住人であっても、気遣いは忘れない。

 それがシオンの素晴らしい部分だと、アイザックは長い付き合いから知っている。

「物覚えがいいなら、油断できない」

「何が?」

「才能の面で、越されたら?」

「それは……」

 「ない」と言い掛けるが、明確な確信があるわけではないので途中で言葉を止めてしまう。

 クローリアが懸命に勉強を続ければ、抜かれてしまうかもしれない。

 油断は足元を掬われることを知っているので、もし自分より頭が良くなってしまったら――と、シオンは動揺する。

「……狭いな」

「どうした?」

 アイザックからの質問にシオンは苦笑すると、本音を話す。

 クローリアが自分の上に行ってしまったら、嫉妬心を覚えるだろう。

 才能がある者が上に行くのは当たり前だというのに、それを素直に認めることができない。


 だから「心が狭い」と、シオンは呟いてしまったという。

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