アメット

 他者を批判できない。

 それが、シオンの答え。

「いいんじゃないか」

「そうか?」

「聖人君子か?」

「違う」

「それなら、僕はいいと思う。あの上司の性格より、余程シオンの方が優しい。あの人達は……」

 流石に最後の部分は、人が行き来している場所で言うことはできない。

 アイザックはシオンの横に立つと小声で囁く。

 アイザックの言い方が面白かったのだろう、反射的に噴き出すと感謝の言葉を返す。

 同時に友人の言葉によって、本当に小さいことで悩んでいたと気付かされた。

「あまり、真面目に考えない方がいい」

「そうするよ」

「それに、こう考えたらどうだ? 彼女が頭が良くなれば、あれこれと相談に乗ってくれる」

「……なるほど」

「と、考えればどうだ?」

「参考にするよ」

 アイザックの適切な意見に納得できたのだろう、シオンは心の中に存在していたモヤモヤした物が晴れていく。

 シオンが元気を取り戻してくれたことにアイザックは笑顔を作ると、目の前にあるパソコンを指差すと「これくらいのスペックでいいと思う」と、購入の後押しをする。

「アイは?」

「これにする」

「やっぱり、それでいいんだ」

「ある程度出さないと、いい物は買えない」

「一括?」

「冗談」

「だよな」

「シオンは」

「一括は無理」

 購入するパソコンが決まれば、後は支払いをするだけ。

 給料を考えれば一括も可能だが、それを行っては生活費が苦しくなってしまう。

 金の有難味を知っているからこそ、大事に使う。

 二人は同時に財布からカードを取り出すと、店員に示す。

 勿論、二人の支払い方法は分割だ。


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