アメット
「反対は、なかったのでしょうか」
「階級を偽ること?」
「はい」
「周囲は賛成してくれなかったけど、父さんは賛成してくれた。一ヶ所に止まるより多くを見た方が、いい経験になると」
今思えば〈統治者〉と言い踏ん反り返って地位に胡坐をかいているのは、グレイは望まない。
だから統治者の地位を受け継ぐまで、好きにやって欲しい――という考えがあったからこそ、科学者として生きることを許した。
現にシオンは多くを学び、いい友人も作った。
「他の統治者の方々も……」
「いや、うちが特別」
「では、他は?」
「いや、他の一族は……」
気の知れたアイザック相手なら、あのように不平不満と愚痴を言うことができるが、流石にクローリアに悪口を言うわけにはいかない。
曖昧な言い方をしているシオンにクローリアは首を傾げると、他の統治者の方々はシオンとは違う性格の人物なのか、逆に尋ねてくる。
「まあ……ね」
「そうでしたか」
「心配?」
「大丈夫なのでしょうか」
「父さんは、賛成している」
「ドレスは……」
「此方で用意する」
「有難う……ございます」
いまいち踏み出せないのだろう、クローリアは返答できないでいた。
自分は最下層の人間で、パーティーの主催は統治者。
まさに天と地で、最下層の人間が参加していると知られることをクローリアは恐れた。
そう語る彼女にシオンは「なるほど」と呟くが、後が続かない。
ドームは、明確な階級で縛られている。
それによって就ける職業も決まってしまい、上を目指すのは難しい。
それを誰よりも知っているからこそ、クローリアは本音を言うことができない。
家政婦の証拠であるこの腕輪を、どのように隠せばいいのか。
クローリアは腕輪に触れると、俯いてしまう。
彼女が何を思って躊躇っているのか理解したシオンは、参加している最中隠してしまえばいいという。
また、知られてしまったらしまったで言い訳を考えておくと、彼女を安心させる。