アメット

「反対は、なかったのでしょうか」

「階級を偽ること?」

「はい」

「周囲は賛成してくれなかったけど、父さんは賛成してくれた。一ヶ所に止まるより多くを見た方が、いい経験になると」

 今思えば〈統治者〉と言い踏ん反り返って地位に胡坐をかいているのは、グレイは望まない。

 だから統治者の地位を受け継ぐまで、好きにやって欲しい――という考えがあったからこそ、科学者として生きることを許した。

 現にシオンは多くを学び、いい友人も作った。

「他の統治者の方々も……」

「いや、うちが特別」

「では、他は?」

「いや、他の一族は……」

 気の知れたアイザック相手なら、あのように不平不満と愚痴を言うことができるが、流石にクローリアに悪口を言うわけにはいかない。

 曖昧な言い方をしているシオンにクローリアは首を傾げると、他の統治者の方々はシオンとは違う性格の人物なのか、逆に尋ねてくる。

「まあ……ね」

「そうでしたか」

「心配?」

「大丈夫なのでしょうか」

「父さんは、賛成している」

「ドレスは……」

「此方で用意する」

「有難う……ございます」

 いまいち踏み出せないのだろう、クローリアは返答できないでいた。

 自分は最下層の人間で、パーティーの主催は統治者。

 まさに天と地で、最下層の人間が参加していると知られることをクローリアは恐れた。

 そう語る彼女にシオンは「なるほど」と呟くが、後が続かない。

 ドームは、明確な階級で縛られている。

 それによって就ける職業も決まってしまい、上を目指すのは難しい。

 それを誰よりも知っているからこそ、クローリアは本音を言うことができない。

 家政婦の証拠であるこの腕輪を、どのように隠せばいいのか。

 クローリアは腕輪に触れると、俯いてしまう。

 彼女が何を思って躊躇っているのか理解したシオンは、参加している最中隠してしまえばいいという。

 また、知られてしまったらしまったで言い訳を考えておくと、彼女を安心させる。

< 211 / 298 >

この作品をシェア

pagetop