アメット
シオンの発言に多少の安堵感を覚えたのか、クローリアの表情に明るさが戻っていく。
階級など多くのモノが関係し、パーティーに参加することを躊躇っている。
しかしシオンにしてみれば連れて行きたい気持ちの方が強く、見知らぬ世界を体験してほしいと考えていた。
だが、強制は――
だから、クローリアからの答えを待つ。
「お答えは……」
「言ったように、五日ある」
「ちょっと、考えます」
「わかった」
それに対し頷くと、シオンは空になったカップを持ちキッチンへ向かうと、二杯目の紅茶を淹れる準備を行う。
シオンが何をやっているのか気付いたクローリアは慌てキッチンへ向かうと、自分が紅茶を用意すると言う。
正体を明かされたことが余程気になっているのだろう、声音が震えている。
「気にしている?」
「い、いえ……」
「俺は統治者一族だけど、今はB階級だ」
「それでも、階級は上です」
「確かに、そうだけど……」
正体を明かした後、クローリアの言動が変わったことにシオンは気付いている。
家政婦として働き出した頃、階級の差から生じる戸惑いは存在していたが、このように強い違和感を覚えることはなかった。
このままでは息苦しい生活になってしまうと判断したシオンは、クローリアを見据え口を開く。
「こういうのは、嫌いだ」
「シ、シオン様」
「普通がいい」
「で、ですが……」
「クローリアは最下層の人間とわかっているけど、家政婦として生活している間は、変に階級を絡めて欲しくない。立場上敬語を使わないってわけにはいかないけど、のんびりと暮らしたい。パーティーの件は、クローリアが喜んでくれたら……という気持ちで、参加を望んでいる」
「そのような……」
統治者一族とは思えない発言の数々に、クローリアの心がきつく締め付けられる。
統治者一族といえば、あらゆるモノを支配できる者達の集まり。
その発言ひとつで相手の全て――最悪、命さえ奪ってしまうほどの権力を持つ者が、最下層の人間に気を使うことが信じ難かった。