アメット
「大丈夫?」
「……はい」
「良かった」
「そ、その……」
「うん?」
「密着が……」
オドオドとしているクローリアに、シオンは慌てて密着している身体を離す。
これ以上赤くならないというほど紅潮させているクローリアは、緊張の影響か身体が微かに震えていた。
彼女の反応にシオンは「悪いことをしてしまった」と謝り、再度彼女の前に手を差し出す。
「踊ろうか」
「で、ですが……」
「折角、パーティーに来たのだから」
「お、踊れません」
「まあ、何とかなるよ」
シオンに対しいつもキビキビと仕事をこなす印象を持つクローリアにとって、今の発言は意外そのもの。
しかしシオンの知らない一面を見られたことが嬉しかったのだろう、クローリアの口許が緩んでいく。
そして差し出された手に自身の手を添えると、一緒に立ち上がる。
「ど、どうすれば……」
「合わせてくれればいい」
「が、頑張ります」
密着していたことに動揺していたが、踊るとなれば再び互いの身体を密着させないといけない。
だが、それ以上に「足を踏まないようにしないといけない」という気持ちの方が強かったのだろう、ついつい顔が強張ってしまう。
その顔が面白かったのだろう、シオンは思わず噴き出す。
「シ、シオン様!」
「悪い」
「ひ、酷いです」
「今の顔、可愛かったよ」
「か、可愛い」
「もっと、自信を持った方がいい」
パーティーに参加している同性と自身を見比べ、明確に生じる差について悩んでいることをシオンは気付いていた。
クローリアは気にしているが、あの会場にいても引けを取らない――
いや、それ以上のモノをクローリアは多く持っていると言い、落ち込む心を救い出す。