アメット

 統治者やA階級だからというのは関係ない。内に持っているモノを大切にし、生きていけばいい。

 それに、立場は関係ない。

 シオンはそのように伝え、微笑む。

 優しい言葉の数々に、クローリアの心の中に温かいモノが広がっていく。

 そして改めて思うのは、シオンが跡を継ぐようになっても一緒について行きたいというもの。

 このような素敵な人物とは、二度と会うことはできないだろう。

 いや、それ以上に感情が高まってしまう。

「あの……」

「何」

「い、いえ」

「お腹、空いた?」

「まだ……」

「俺は、お腹が空いた」

 言葉と共に、シオンはクローリアから離れる。

 自分から離れてしまった寂しさを覚えたのだろう、クローリアは俯きながらチクっと痛む胸元を強く握り締める。

 しかしクローリアが抱いている気持ちに気付いていないシオンは、早く何かを食べようと退室しようとする。

 クローリアは、その後を慌てて追いかける。

 そして侍女が用意した食事を二人で取るが、その時に交わされた会話はぎこちないものであった。


◇◆◇◆◇◆


 翌日。

 クローリアは、心地いい温もりで目覚める。

(……あれ)

 家政婦としての仕事をしないといけないと、クローリアは重い身体を無理矢理起こそうとする。

 その時、自分がいつもの場所で寝ていないことに気付く。

 今、何処にいるのか――と視線を走らせると次の瞬間、自分がどのような場所にいて、昨日何をしていたのか思い出す。

(あのまま……)

 慣れない雰囲気とドレスで疲労が蓄積していたのだろう、朝まで熟睡してしまった。

 また履きなれないハイヒールによってのものか、両足が痛い。

 掛け布団を上げ足を見れば白い肌が赤く腫れており、これでは上手く歩くことができない。

 これではシオンに迷惑を掛けてしまうと、気分が落ち込む。

< 242 / 298 >

この作品をシェア

pagetop