アメット

 しかし‘もしも’という場合がある。

 だから、今回は試しに――と、提案する。

「両親って、甘い物好き?」

「最下層では、甘い物は滅多に……」

「なら、美味しいのを用意しないと。人気の店が、いいかな? 店は、後で調べればいいか」

「高い店は、ちょっと……」

 表情を曇らすクローリアに、シオンは彼女の財布事情に気付く。

 用意した土産を一方的に没収された時のことを考えると、クローリアに高額の出費させるわけにはいかない。

 そこそこの給料を渡しているとはいえ、その中から「薬代」ということで両親に仕送りをしている。

 一体幾ら仕送りをしているか知らないが、これ以上クローリアに出費をさせたら可哀想とシオンは考える。

 だから今回の土産は自分が用意すると言い、これについては拒否権がないと伝える。

「で、ですが……」

「だから、拒否権はないよ」

「……はい」

「宜しい」

 クローリアが受け入れたことにシオンは満足そうに微笑むと、自分は買出しに行くと言う。


 勿論、クローリアはシオンが帰宅するまで、静かに待つことにした。


◇◆◇◆◇◆


「こんなに高い物を……」

「いや、構わないよ」

「両親も喜びます」

「そのつもりで、買ったんだから」

 痛みがあった足首が完治したので、シオンが用意した菓子を手に、久し振りに最下層へ戻ることにした。

 エレベーターを使用するには手続きが必要だが、シオンがアムルに頼んで裏工作をしてもらった。

 その結果簡単に許可が下りたことを、クローリアは全く知らない。

 クローリアはシオンに頭を垂れると、いそいそとエレベーターに乗り込む。

 シオンはドアが閉まるまで手を振り見送るが、ドアが閉まった瞬間笑顔が消える。

 一時的な別れであってもクローリアがいなくなることが寂しいのだろう、シオンは携帯電話を取り出すとアイザックに電話する。


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