アメット
それが存在していなければ、シンシアは娘の想いを大事にしてやりたかった。
しかし階級差を考えれば、応援することはできない。
親として何かいい言葉を掛けてやらないといけないが、その「いい言葉」が見付からない。
ただ、憐れみに近い視線を娘に向けてしまう。
「これ、お土産」
「あ、有難う」
「このお土産は、シオン様からお父さんとお母さんにって。中身はどういう物なのか、わからないけど……」
「そうなの!?」
「シオン様が最下層へ高価な物を持って行くと、途中で没収されるかもしれないって言って……代わりに支払って頂いたの。本当は、頂いているお給料から支払おうと思っていたけど、シオン様が没収された時が勿体ないって。だから、今回はシオン様が買ってくれて……」
「そうだったの」
「でも、大丈夫だったわ。こうやって、お母さんのもとにお土産を持って来ることができたもの。次はシオン様に頼らず、自分のお給料で買ってくるわ。二度も、お世話になれないもの」
娘の話を聞きながら、シンシアは箱を開く。
箱の中に綺麗に並べられているのは、美味しそうなカップケーキ。
最下層では手に入れることのできないお菓子に、シンシアは目を見開く。
そして「これ、高くないの?」と聞き、高級な物を頂いてしまったことに恐縮する。
このカップケーキは何度か食べたことがあるのだろう、クローリアは「普通の値段」と、伝える。
だが、シンシアにとって「普通」の概念がいまいちわからないらしく、値段を聞く。
母親からの質問に、クローリアは自分が今暮らしている上部での「普通」について話していく。
クローリアが家政婦として上部の世界で暮らしはじめてから、それほどの月日は経過していない。
していないが、話を聞いているとすっかり今の階層に適応してしまっている。
「最下層では、高級品ね」
「そうかもしれない」
「これ、頂きましょう」
「うん」
久し振りに家族三人で食事ができることが嬉しいのだろう、クローリアの表情が綻ぶが、我慢の限界に達したのだろう、咳き込んでしまう。
娘の変化にシンシアはクローリアの背中を摩ると、体調を崩しているのなら無理しなくていいと、ドーム上部へ行く前に使用していた彼女の部屋に連れて行く。