アメット
久し振りに訪れた自身の部屋に懐かしさが込み上げて来るが、それと同時に横切ったのは「簡素」という言葉。
シオンが用意してくれた部屋と同じ広さだというのに、置かれている物が違う。
こちらは必要最低限の物しか置かれておらず、あまり掃除をしていないのだろう埃っぽい。
「大丈夫?」
「……うん」
「少し休むといいわ」
「そうする」
ふと、お土産のことを思い出し、反射的に母親の顔に視線を合わす。
その必死な姿にシンシアはクスっと笑うと、必死にならなくてもきちんと残しておくと伝え、早く休むように促した。
母親の促しにクローリアは頷くと、ベッドに横になる。
しかし古めかしいベッドに敷かれたシーツは肌触りが悪く、またスプリングがいまいち。
中古品しか買えないから仕方ないことだが、シオンのもとへ行ってわかったのは、最下層がどれほど不便な生活をしているかというもの。
シオンに購入してもらったベッドはスプリングが効いていて、掛け布団とシーツは肌触りがいい。
はじめて買ってもらった時、クローリアはあまりの気持ちよさに夢ひとつ見ないで朝を迎えたほど。
だが、このベッドでは――
実家に帰って来て判明したのは、自分が上部の世界に慣れてしまったというもの。
最下層の住人であったが、今は違う。
天井を眺めながら茫然としている娘に何かを感じ取ったのか、シンシアが声を掛けて来る。
「ちょっと……」
「言えないこと?」
「うん」
「まあ、いいわ」
「……御免なさい」
「いいわよ。仕事で、疲れているのでしょう。なら、戻って来た時くらい、ゆっくりしなさい」
「うん」
「今は、休むこと」
それだけを言い残し、シンシアは退室する。
母親が退室したことにクローリアは溜息を付くと、身体を起こし窓を開く。
その瞬間、大量の空気を吸い込んでしまったのだろう、何度も咳き込んでしまう。
これにより判明したのは、身体が最下層の空気を拒絶しているというもので、息苦しさが緩和することはない。