アメット
クローリアは開いた窓を閉めると、ベッドに腰掛けながらこれからのことについて考える。
実家に戻ったのは、嬉しい。
だけど――
この身体では、長く滞在できない。
具合が悪いと勘違いしている母親にきちんと真実を話さないといけないが、何と言われるのだろうと、そちらの方を心配してしまう。
それに話してしまうと、二度と実家に帰れない――と、不安を抱く。
(シオン様に――)
ふと、脳裏に過ったのは世話になっている人。
最下層の状況を知っているシオンに相談すれば、適切な回答を得られるかもしれないと、クローリアは考える。
だが、それ以上に悩んでしまうのは、シオンの正体。
両親に、このことを話すべきか話さずべきか――B階級と偽って生活しているのだから、勝手に話していいものではない。
また「シオン様は、統治者の一人です」と言ったところで、両親が信じてくれるかどうか怪しかった。
意気揚々と実家に戻って来たというのに、クローリアの悩みは尽きない。
気分転換で最下層を散歩してもいいが、空気の悪さに途中で倒れてしまうかもしれない。
ここは生まれ育った場所だというのにまるで別の世界のようで、特に身体は「早く戻りたい」と、訴えている。
「……シオン様」
呼んだところで、シオンは上部にいるので応えてはくれない。
買って貰った携帯電話は置いてきてしまったので、連絡も取れない。
このような状況であったら携帯電話を持ってくればよかったと考えるが、いくら後悔しても遅く、どうしようもならない状況に溜息が漏れてしまう。
クローリアがシオンのことを想い考えている頃、シオンもクローリアのことを考えていた。
元気にやっているか。
両親と楽しんでいるか。
など、過度に心配する。
それについてやっと電話に出たアイザックは、苦笑するしかできない。
今まで異性に対しこのような反応を示さなかったシオンが、クローリアを気に掛けている。
それは意外というより信じ難い状況で、やっとシオンにも春が来たのだと、アイザックは電話口で笑いだす。