アメット

「春?」

『嫌いか?』

「嫌いじゃ……ない」

『なら、春だね』

 シオンは恋愛に疎い方ではないので、アイザックが何を言いたいのか理解する。

 友人の言葉に嘆息すると、パーティーに連れて行った翌日からクローリアの様子がおかしいといとを伝える。

 アイザックは、勘がいい人物。

 シオンの話からクローリアが抱いている想いを見抜くと、彼女がどうして様子がおかしくなったのか、事細かに説明していく。

 その言葉のひとつひとつがシオンの心の奥底を刺激し始め、自分がどのような感情を抱いているか鮮明にしていった。

「俺は……」

『やっぱり、そうか』

「やっぱり?」

『前々から、気付いていた』

「そうなのか?」

『なんと言うか、とてもわかり易い。他のこと……統治者のことは、全く気付かなかったが……』

「だけど……」

『階級か』

 アイザックの指摘に、シオンは何も応えることはしない。

 だが、この沈黙によって判明したのは、越えることのできない階級。

 シオンは統治者一族の人間で、クローリアは最下層の人間。

 ドームは階級制度で縛られているので、互いにどのように想っていようが一緒にはなれない。

 それについてアイザックは、一言「辛いな」と、呟く。

 階級によって今の生活が保たれるが、それと同時に不幸を見ている者も多い。

 シオンとクローリアの出会いは「運命」という言葉が似合うが、その出会いによって苦しみも生まれた。

『いいんじゃないか』

「アイ!?」

『お前はいつか、誰かと結婚しないといけないんだろう? それなら、好意を持つ者の方がいい』

 二人が一緒になることによって、ドームに蔓延しているモノを吹き払う切っ掛けになれば――と、アイザックは考える。

 遅かれ早かれ、今の階級制度はドームで暮らしている者達を蝕み、下部の者達の不平不満が爆発してしまう。

 現に、自分達も上司の言葉にストレスが溜まっている。


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