アメット

 アイザックの話に、シオンは納得する。

 現に自分達だけではなく、同僚も上司のやり方にいい印象を抱いていない。

 階級によって、出世が決定する。

 本来、科学の世界は実力がモノを言う。

 しかし、ドームの中は――

 シオンを含め、多くの者が歯痒い思いをしている。

 だから統治者一族のシオンが、第一歩を踏み出せばいい――と、アイザックは後押しする。

「重い一歩だ」

『しないよりはいい』

「……そうだな」

 決意が固まったのか、友人の言葉にシオンは微笑を浮かべる。

 一体、この先に何が待っているのか――

 勿論、大体の予想は付く。

 父親やアゼルは賛成してくれるだろうが、他の統治者一族が辛辣な言葉を投げ掛けてくるかもしれない。

 特にアークは階級制度に絶対的で、下の階級の者を見下している部分がある。

 だが、パーティーで判明したのは、階級は内面と一致しないというもの。

 美しく着飾り化粧を施したクローリアは、見紛うばかりに変身し、誰も階級が低い者と気付くことはなかった。

 それどころかあの女ったらしのアークさえ、クローリアに興味を示したほどである。

『これで、彼女持ちか』

「まだ、決まっていない」

『幾つだっけ?』

「17」

『若い』

「何か、言いたそうだな」

『羨ましいってことだよ。普通、そんな若い子と付き合えるって滅多にない。仕事が忙しくて、なかなか彼女が作れない』

「アイは、いい奴だ」

『お前に言われると、嬉しいな』

「だから、すぐに作れる」

 すると今の言葉がアイザックのある一部分を抉ってしまったのか、電話口から呻き声が聞こえる。

 その反応から瞬時に察したのは「今、アイザックに恋愛の話はしてはいけない」というもの。

 友人が17歳という若い彼女を得られるかもしれない状況に、動揺を隠し切れないでいた。


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