アメット

 身体に合わない。

 これが、正しい答え。

 階級差によって区別されているが、身体の内部まで区別されていた。

 上部の世界に行ったことによって判明した、悲しいまでの現実にクローリアの心が痛む。

 この状況からの脱却は、シオンが参加している「浄化プロジェクト」に掛かっているが、シオンの話では思うように進まない。

 また、いい切っ掛けが見付からないので、行き詰っている。

 多くの天才が集まっているのに、どうして――

 と、クローリアは考えたことがあった。

 しかし、今は違う。

 ある程度の勉学を行っているからこそ気付かされるのが、シオンがどのようなことを行っているかというもの。

 難しくて。

 大変で。

 それでも、頑張っている。

 だが、思っている未来は遠い。

(シオン様は……)

 思い出すのは、いつも側にいてくれる人物。

 最初は最下層から上部へ連れて行ってくれた「いい人」と見ていたが、一緒に暮らすうちにつれ徐々に心境が変化していく。

 シオンの側にいると恥ずかしく、褒められると嬉しい。

 また、今は一人で大丈夫なのか――と心配してしまい、実家に帰って来たというのに安らげない。

(私……)

 勿論、理由はわかっている。

 それでも、口には出せない。

 それは「恥ずかしい」という可愛らしい感情だからではなく、それを言ってはシオンが迷惑するのではないかと考えるからだ。

 シオンはいずれ父親の地位を継いで、統治者として上に立つ。

 言ってしまえば、その人物の足枷になってしまうのではないかと、悩み苦しむ。

 それでも――

 感情を封じるほど、クローリアは強くない。

(シオン様のもとに……)

 湧き上がった感情は、クローリアを突き動かす。

 腰掛けていたベッドから立ち上がると、両親のもとへ向かい「明日、帰る」ということを告げる。

 突然すぎる娘からの言葉に両親は驚くも、母親であるシンシアが、クローリアがどのように思って発言したのか見事に言い当てる。


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