アメット

 母親の発言に、クローリアは言葉を詰まらず。

 しかしそれが、想いを明確にする。

 それに対しシンシアは一言「そう」としか、返すことができない。

 また、娘の気持ちを優先するなら、無理に引き留めるわけにはいかない。

 シンシアは溜息を付くと、部屋の隅で休んでいる夫に視線を向け、この決断で正しかったのか尋ねる。

 仕方がない。

 それが、夫の答え。

 元々、クローリアは家政婦として働いている。

 休みを貰っているとはいえ、長々と寛いでいていいものではない。

 だから早く帰って家政婦の仕事をしないといけないと、クローリアの背を押す。

「……御免ね」

「いいわよ」

「折角、来たのに……」

「貴女は、貴女の仕事があるわ。いくらお休みを貰ったとはいえ、それに甘えきっては駄目」

「うん」

「明日、帰るなら支度しないと」

「支度っていうほど、持って来てないわ」

「なら、休まないと」

 母親の言葉に返事を返すのが辛くなったのか、クローリアは頷くしかできない。その後両親を一瞥すると、自室へ戻って行く。

 部屋の中に響く、ドアが閉まる音。

 その音に、シンシアは肩を竦めた。

「どうした」

「あの子……」

「何があったのか」

「間違いだったら、いいのだけど……」

 躊躇いながらも、シンシアは考えを話しはじめる。

 上部で暮らしはじめ、クローリアは確実に変わりはじめた。

 それは、最下層では経験できないモノを経験したから――とシンシアは予想していたが、オドオドとしているクローリアを見て違うと気付く。

 あれは、誰かに好意を抱いている。

 その人物が誰なのか特定はできないが、シンシアはある部分を恐れていた。

 クローリアが好意を抱いている人物が、自身の雇い主ということ。

 互いの階級を考えれば一緒になることはできず、ましてや最下層の人間は多くを求めてはいけない。

 これが、ドームで生きる者の定め。


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