アメット
色恋沙汰は、思った以上に複雑。
だから――
暫しの沈黙が続く。
階級制度を改めて認識し、本人が身を引いて諦めるしかない。
それが辛い思いをせずに済む最善の方法だが、親の情というものだろう、面と向かって注意することはできなかった。
◇◆◇◆◇◆
翌日。
母親の見送りでエレベーターに乗り、上部へと急ぐクローリア。
到着と同時に真っ先に感じたことは、空気が綺麗ということ。
また、戻って来たことにより胸の痛みと息苦しさは解消され、いつもの通り呼吸を行うことができた。
それと、どこか安心感に包まれている。
(今日は、お仕事かしら)
クローリアは周囲を見渡し、時刻を確認する。
現在の時刻は、9時。
休みの日であったらこの時間は寝室でいるのだが、仕事の場合もう出勤しているので不在。
在宅の有無を確認しようにも、携帯電話は所持していない。
それなら携帯電話を取りに行くついでに、シオンの在宅の確認をすればいいと考えたクローリアは、マンションへと急ぐ。
教えられた解除キーを打ち込み、入室する。
部屋の中は薄暗く、人の気配は感じられない。
シオンは今日仕事で出勤しているらしく、今は一人。
そのことに不安と寂しさを覚えたのか、クローリアはいつも使っている寝室へ向かうと、靴を脱ぎベッドに横たわる。
最下層にある自分の寝室のベッドと違い、此方の方が寝心地がいい。
肌触りも勿論だが、落ち着くといった方が正しく、何よりこの場所にいればシオンを感じることができる。
(私……)
心が、きつく締め付けられる。
それに伴い、眼元に薄らと涙が滲む。
思えば思うほど辛くなり、忘れようにも忘れることができない。
こんなに苦しい想いをするのなら、シオンに会わなければよかった――と考えてしまうが、このような素敵な経験をできるのもシオンのお陰。
意を決し想いをぶつけてしまえばいいが、躊躇いもないわけでもない。