アメット
はじめて知った恋。
最下層時代「恋」というモノ自体は認識していたが、特定の誰かを好きになったことは一度もなかった。
また、恋は苦しいと耳にしていたが、これほどのものとは想像できないでいた。
そもそも、シオンは完璧すぎた。
パーティーの時に、多くの女性達が騒ぎ立てるのもわからなくもない。
しかしシオンは、彼女達の行動を嫌っていた。
自分が将来受け継ぐ権力と金を目当てに、集まって来るのだから。
だから媚びを売り気に入られようと必死になり、時に同性同士で醜い喧嘩を繰り広げる。
(もし、告白したら……)
ふと、不安感に苛まれる。
告白した場合、彼女達と同じ人物に見られるのではないかと、クローリアは考える。
勿論、クローリアはそのような気持ちは持っていない。
シオンという人物が好きで、尊敬もしている。
だが――
思わず、枕に顔を埋めてしまう。
その時、玄関のドアが開く音が響く。
その音に反射的にクローリアは身体を起こすと、靴を履き玄関へ向かう。
刹那、互いの目が合った。
「……シオン様」
「ク、クローリア!?」
「お仕事では……」
「忘れ物を取りに来た。というか、こんなに早く帰って来るなんて、何か嫌なことがあったのか?」
「そんなことはありません」
「なら、どうして」
「シオン様に会いたくて……」
「俺に?」
クローリアの発言に、シオンは間の抜けた声音を発してしまう。
その反応にショックを受けたのか、クローリアは俯きながら服を強く握り締める。
シオンに会いたいという願いが叶ったので想いをぶつけてしまえばいいが、顔を見た途端緊張感が増したのだろう、上手く言葉にできない。
いつもと違う雰囲気を漂わせているクローリアを落ち着かせようと、あれこれと声を掛けるが、クローリアの耳に届いていない。
ただその場で立ち尽くし、動こうとしない。
シオンはクローリアの背を押そうとするが、触れられるのを拒むのだろう思わず身構えてしまう。