アメット

「す、すみません」

「いや、いいよ」

 二人の間に漂うのは、微妙な空気。

 また、沈黙が続く。

 この独特の空気に耐え切れなくなったのか、シオンは自室へ忘れ物を取りに行ってしまう。

 一人になったクローリアは「落ち着け」と何度も言い聞かせるが、落ち着くどころか鼓動が速まっていくのがわかる。

 また、顔が焼けるように熱くなり、身体が小刻みに震えだす。

 どうすれば――

 自問自答を繰り返していると、シオンが戻って来る。

 すると顔を紅潮させながら震えているクローリアに驚いたのだろう、シオンは目を丸くする。

 だが、先程の出来事があるので触れるのを躊躇う。

「クローリア」

「シオン様、私……」

「どうした?」

「私……」

 しどろもどろになっている姿から、シオンはクローリアが何を考えているのか悟る。

 同時に、彼女もまた同等の想いを抱いていることを知る。

 この状況でクローリアの口から直接言わせるのは可哀想と思ったのだろう、シオンは少し照れながら彼女への想いを伝えていく。

「駄目……かな?」

「そ、そんなことは……」

 突然のシオンからの告白に半分思考が停止してしまったのか、後半に向かうにつれ声音が小さくなっていく。

 可愛らしい反応にシオンは顔を綻ばすと、どうしてクローリアに好意を抱いたのか話す。

 参加していた者達と違うから。

 地位や金に、目を向けないから。

 その中で一番は、日々頑張っている姿が愛らしい。

 次々と語られる評価に、クローリアは顔だけではなく耳まで紅潮してしまう。

 クローリアにとってシオンは初恋の相手で、その相手から高い評価を受ける。

 勿論、それは嬉しいことだが、それ以上にシオンからそのように見られていたのかと、心の奥底が温かくなっていく。

 この恋について、シオンも立ちはだかる階級に悩んだという。

 しかし階級制度以上に、大事なモノがこの世には存在するとアイザックに言われた。

 それに二人の仲を切り裂くような出来事が起ころうとも、身を挺して守ってやると――クローリアを安心させるのであった。


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