アメット
「これからも、宜しく」
「……はい」
叶わないと諦めていた想いが、こうやって繋がった――
クローリアは当初は信じられなかったが、シオンの声音と熱い頬が事実と証明してくれる。
シオンはクローリアを抱き締めると、彼女の額に口付をしようとしたが、間が悪く携帯電話が鳴る。
空気が読めない携帯電話にシオンは舌打ちするが、流石に電話に出ないわけにもいかない。
名残惜しそうにクローリアを離すと、ポケットから携帯電話を取出し渋々出る。
電話の主は同僚。
それも、電話口が慌ただし。
「どうした?」
『……機嫌が悪い』
「機嫌?」
『わかっているだろう』
「……ああ」
真っ先に思い付いたのは、自分達の上司。それも不機嫌な表情を浮かべ、小言を言っている姿だ。
それを思い出した瞬間、シオンの身体が震える。
その姿にクローリアは首を傾げると、何があったのか尋ねる。
彼女からの質問にシオンは嘆息すると「仕事のトラブル」と話、肩を竦めた。
「それなら、行かれた方が……」
「悪い」
「美味しい料理を作って、待っています」
「有難う」
ほのぼのとした二人の会話を電話口の同僚が聞いていたのだろう、シオンが「すぐに戻る」と言った瞬間、毒が大量に含まれた言葉が返される。
まさかクローリアとの会話を聞かれていたとは思わなかったのだろう、シオンは動揺を隠せず、言葉がしどろもどろになってしまう。
いつもとは違うシオンの言動に同僚は大笑いすると、一言「急いでくれ」と言い残し、電話を切る。
同僚の反応にシオンは盛大な溜息を付くと、携帯電話を仕舞いクローリアに視線を向けた。
ちょこんっと立ち尽くしているクローリアは、シオンと視線が合うと表情を綻ばず。
同じようにシオンも表情を綻ばすと、先程携帯電話の着信音によって阻まれてしまった額への口付を行う。
勿論、クローリアはこのようなことをされたことがないので、身体が硬直してしまう。