アメット
「シ、シオン様」
「嫌だった?」
「そ、そんなことは……」
「そういう姿も、可愛いな」
俯きオドオドとしている初々しい姿にシオンは微笑を浮かべると、クローリアに研究所に戻ることを告げる。
その言葉にクローリアは反射的に顔を上げるが、シオンと目が合った瞬間、羞恥心が湧き出したのだろう再び俯いてしまい、今度は何も言えなくなってしまう。
ただ、コクコクと頷くのみ。
勿論、シオンは言いたいことを理解する。
「いつものように、遅くなる時は事前に連絡する。それと、帰って来たばかりなのだからゆっくり休むといい。疲れているだろう? だから料理に関しては、手を抜いても怒ったりはしない」
そう言い残すと、シオンは玄関へと向かう。
静寂の中に響くのは、ドアの開閉音。
次の瞬間、緊張の糸が切れたのかクローリアはその場でしゃがみ込み、自分の身に起こった出来事を整理する。
シオンに想いを抱いていた。
しかし階級が階級なので、諦めていた。
だが、シオンが告白してくれた。
これは、夢ではないのか――
そう考えクローリアは自分の頬を叩くが、痛みによってこれが現実と知る。
本来、階級が違う同士結ばれることは殆どない。
ましてや、統治者一族と最下層の者が一緒になることは有り得ない。
それでもいいと、シオンは言ってくれた。
クローリアは奇跡に近い状況にうっとりと浸り続けるが、途中で家政婦の役割を思い出したのだろう、慌てて立ち上がるとキッチンへ向かい冷蔵庫の中身をチェックしだす。
シオンはゆっくりと休んでいいていいと言っていたが、告白されたからには今以上に頑張らないといけない。
(今日は、何を作ろうかしら)
と考えるも、冷蔵庫の中は殆ど何もない。
クローリアが実家に戻っている間、外食で済ませようとシオンは考えていたのか、残されている食材は少なく、大半が調味料と飲み物であった。
以前の冷蔵庫であったら、それなりに食材が入っていたが、今は完全にクローリアに任せっきりの生活になってしまったのだろう、一日いないだけでこの有様。
これこそクローリアが信頼されている証であり、彼にとっていかに大事な存在になっているか手に取るようにわかる。