アメット
「何?」
「いや」
「……悪かった」
「やっぱり、何か言いたかったのか」
「まあ」
しかしアイザックはシオンが何を言いたいのか理解していたのだろう、それについて何か文句を言い返すことはしない。
それどころか「お前に負けないような彼女」と、力強く宣言する。
友人の宣言にシオンは表情を緩めるが、瞬時に強張ってしまう。
それは彼等の楽しさを奪う人物が、二人の視界の中に映り込んだ。
アイザックはシオンに目配せすると、それに応えるようにシオンは頷き返す。
警戒している人物に気付かれないようにと、二人はそそくさと逃げ出す。
幸い、その人物に二人の存在は気付いていない。
だが――
別の人物が捕まってしまう。
「可愛そうに」
「ご愁傷様」
二人は廊下の角から顔を覗かせながら、様子を眺める。
勿論、見ていていいものではなく、何が不満なのか、言葉の端々に毒が混じっている。
言っている側は気分がいいだろうが、言われる側はたまったものではない。
現に顔面蒼白で、項垂れながら口から半分魂が抜けている。
彼等の横を通り過ぎる者は対照的な姿に動揺するが、誰一人として声を掛けることはしない。
ただ、何もなかったかのように立ち去り、自分は関係ないという素振りを見せるのだった。
「反応、わかるな」
「同じく」
「声を掛けたら、とばっちり」
「有り得るね」
「で、どうするんだ」
「何が?」
「今後だ」
「だから、何の?」
反応の悪いシオンにアイザックは嘆息すると、クローリアとの今後に付いて聞いたのだと言い返す。
今、雇い主と家政婦の関係であるが、告白した今その関係を続けていくのかと、アイザックは心配している。
友人の疑問にシオンは腕を組むと、唸り声を上げながら悩む。