アメット
あの世界は独特で、狙われてしまったら悪い噂を生み出す。
繊細なクローリアは狙われたら、精神まで痛め付けられ、下手したら廃人になってしまう。
それを避ける最善の方法は、クローリアを階級の高い者の養女とし、シオンと釣り合いが取れるようにしないといけない。
アイザックの言葉に納得するかのようにシオンは頷くと、相談に乗ってくれたことに感謝する。
「いいさ」
「なんだか、貸しばかり作っている気が……」
「後で、全部返して貰うぞ」
「……怖いな」
「楽しみにしていろ」
「言うな」
「お前との付き合い、長いからな」
そう言いつつ、アイザックは悪戯っぽく笑う。
それに対しシオンは苦笑しつつ、後頭部を掻く。
しかし、長々と楽しんでいる暇はなかった。
二人が話をしていたのは休憩時間で、その時間が終了すれば仕事に戻らないといけない。
互いに利き手を上げ軽く手を振り、それを別れの挨拶とする。
シオンは凝り固まった肩を解しつつ向かった場所は、厳重に封印された扉の先。
パスワードを打ち込みロックを解除すると、部屋の中に立ち入る。
だが、普通の状態で立ち入ることのできる場所ではなく、外界へ調査に赴く時のように防護服を着ないといけない。
この部屋の中に存在するのは、外界で採取した植物類。
中には毒を噴き出すモノもあるので、防護服は欠かせない。
シオンは防護服を纏うと、部屋の中に立ち入る。
その瞬間、視界が曇りだす。
(まあ、此方の方が……)
部屋の中は外界に似ているが、天候の変化によって命の危険に晒されることはないので、何倍もいい。
それでも防護服は欠かせず、不格好な状態で作業を行わないといけないから大変。
「よお!」
「来たか」
シオンが気さくに声を掛けると、作業を行っていた者は手を止め振り返るが、すぐに仕事を再開する。
シオンはゆっくりとした足取りで作業を行っている者の側に近寄ると、目を細め相手の手元を眺めるが、食虫植物とも呼べる不格好などす黒い植物に思わず顔を顰めてしまう。