アメット

「どう見る?」

「研究素材としては、最高だね」

「それとも、種になるまで待つか」

「中身の確認もしたいし、成分分析もしたい。ひとつといわず、ふたつ実をつけてくれれば……」

 これほど好奇心が擽られる素材はなく、あらゆる面で研究を行いたいと二人は考える。

 しかし目の前にある実はひとつしかないので、どのように扱うかは慎重にならないといけない。

「まあ、その前に報告か」

「報告しないと、後が煩い」

「だな」

「で、そっちは終わったか?」

「いや、これから」

「了解」

 短いやり取りを終えた後、再び作業を進めていく。

 植物は、問題なく成長しているか。

 また、変わった箇所はないか。

 ひとつひとつ丁寧に扱い、記録を残していく。

 纏っている防護服は空調機能も備え付けられているが、暑さによって排出される汗とは違う粘り気を帯びた汗が額に滲む。

 これも気を使い集中している影響か、一筋の汗が流れ落ちる。

 これを拭うことができればどんなに気持ちがいいだろうが、防護服を着ているのでそれはできない。

 拭えないことに苛立ちに近い何かを覚えたのか、シオンは思わず絶叫に近い声音を発する。

「ど、どうした!」

「汗が……」

「目に入ったか?」

「いや、拭いたい」

「そう、言われても……な」

 汗を拭うには一度防護服を脱がないといけないが、その後が何かと面倒なことが多い。

 同僚の指摘にシオンは暫く考え込むと、その面倒をこなすならこのままでいると諦めることにした。

 だが、シオンの言いたいことも理解できるので、相手は強く言い返すことはしない。

 それなら早く仕事を終了させ防護服を脱げばいいと、止まっている仕事を進めようと促してくる。

 それが一番いい方法――というよりそれしかなかったので、シオンは嘆息と共に肩を竦めた。


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