アメット

 作業中、二人の間に会話はない。

 ただ、黙々と作業を進めていく。

 そして二時間後、何とか仕事を終えることができた。




 仕事からの解放――というより防護服から解放されたことに、シオンは清々しい表情を浮かべる。

 相当汗をかいたらしく全身がぐっしょりと濡れ、シャワーを浴びたい気分だった。

 シオンは凝り固まった肩を解しながら、シャワールームに向かう。

 本当であったら長々とシャワーを浴びたい気持ちだったが、まだ仕事が残っているのでシオンはこの場で寛ぐのを諦めることにした。

 次の仕事は――

 そのようなことを考えつつ、濡れている髪を乾かす。

 今日はいつもと違い、仕事が多く溜まっている。

 あれをこなして、これを終わらせないといけない。

 シオンは計画的に仕事を進めているが、こなしている仕事が仕事なので、なかなか終わりが見えない。

 しかし、これはこれで楽しかった。

 乾いた髪を手で梳きつつ身支度を整えると、シャワー室を後もした。

 廊下を歩いている途中、シオンの腹が空腹を訴える。

 その音にシオンは、今日は殆ど何も食べていないことを思い出す。

 家に帰ればクローリアの美味しい手料理を食べることができるが、いかんせんそれはできない。

 それなら昼食は簡単な料理で済ませ、夜はクローリアの手料理を腹いっぱい食べればいい。

 と、シオンは考える。

 クローリアの手料理。

 彩り豊かな料理を想像した瞬間、胃袋が盛大な音を響かせた。

 それは二度・三度と続き、限界が迫っていることを伝える。

 腹の音にシオンは胃袋周辺を撫でると、このままでは危ないと悟る。

 だが、このような時ほど不運が重なるもの。

 タイミングが悪いというか、目の前から同僚がやって来る。

「よお!」

 いつものシオンであったら同僚の挨拶に気さくに返事を返しているが、空腹が酷いので不機嫌そのもの。

 シオンが漂わせている「声を掛けるな」オーラを敏感に感じ取ったのか、同僚は挨拶と共に上げていた手を下げることができないでいた。

 また、視線を泳がしている。


< 268 / 298 >

この作品をシェア

pagetop