アメット

「おい、大丈夫か」

「な、何とか……」

「落ち着いて食え」

「お前が待っているから……」

「そう言って大食いされて、窒息死された方が困る。俺達も悲しいが、家政婦だって悲しむぞ」

 同僚が発した「家政婦」という単語に、シオンは過敏に反応を示すかのように身体を震わす。クローリアの気持ちを考えれば、今自分が不慮の事故で亡くなれば悲しむのは間違いない。それ以上に最下層の身分が引っ掛かり、この階層では生きていくことができなくなってしまう。

「だから、ゆっくり食え」

「……そうする」

 背中を摩られ落ち着いたのだろう、シオンは二度・三度咳払いした後、食事を再開する。落ち着いて食事を食べはじめたシオンを確認した同僚は、自分が飲む飲み物を取りに向かう。しかしそれは一杯だけではなく二杯で、片方はシオン用に用意したらしく彼の目の前に差し出す。

「おっ! 有難う」

「ブラックでいいか?」

「勿論」

 食事の手を止めると、受け取ったブラックコーヒーを喉に流す。いつも以上に濃い目の味だったが、決して飲めないわけではない。同僚もブラックコーヒー派らしく、まず香りを楽しみ一口口に含む。

「美味い」

「結構、凝る方か?」

「どういう意味だ」

「飲み方を見て……ね」

「凝るまではいかないが、好きだな。仕事に疲れた時、濃い目のブラックコーヒーを飲むと美味い」

「だから、ガブ飲みしているんだ」

「ガブ飲みはしていないぞ」

「いや、あの量は……」

「なんだよ、その言い方」

 本人はガブ飲みを否定しているが、シオンが記憶している中には相当量を飲んでいる同僚の姿がある。二・三杯飲むのは普通だが、同僚が飲んだのは七杯。これだけ飲めば胃袋がいっぱいになってしまい、気分が悪くなってしまうものだが、同僚は平然と仕事をしていた。
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