アメット
まさに、鉄の胃袋をいうべきか――
現に今も、ブラックコーヒーを飲み干している。
やはり一杯では満足できなかったらしく二杯目を貰いに行くが、それも短時間で飲んでしまう。
「熱くないのか?」
「いや、特に……」
「そうか、だから大量に飲めるのか」
「羨ましいか?」
「別に……」
シオンにとってブラックコーヒーは一・二杯飲めば満足できるので、大量に飲めることを「羨ましい」とは思えない。それどころか大量のブラックコーヒーは胃を荒らす原因になってしまうので、健康面を考えれば熱々のブラックコーヒーを大量に飲むことは避けないといけない。
しかし同僚は、検査で引っ掛かったことはない。
鉄の胃袋は、伊達ではなかった。
「あー、そうそう」
「どうした?」
「外界へ行く」
「押し付けられたか?」
「半分そうで、半分違う」
「そういう意味だ?」
「以前、お前が言っていただろう」
同僚の言葉に、シオンは食事の手を止め考え込む。
思い出したのは、アイザックに話した「外界に行くので、休みを許してもらった」というもの。話の内容からしてそれが正しく、同僚もシオンの真似をして休みを取ろうとしていた。
「有休は権利となっているが、下の者はなかなか取ることができない。だから、外界に……だ」
「気を付けろよ」
「飛ばされそうになったな」
「あの時は、死ぬかと思ったよ。たまたま近くに石があったからよかったけど、なかったら……」
今この場に、シオンはいなかった。クローリアもシオンの存在を知らぬまま一生を過ごし、上部の世界は憧れのままだった。シオンは当時の状況を思い出しつつ、素直な感想を伝える。シオンの話に同僚は苦笑しつつも目は真剣そのもので、彼自身外界の恐ろしさを知っていた。