アメット

 油断は、死に直結する。

 だから神経を敏感にし、周囲に目を配らないといけない。

 そう、同僚は語る。

 納得できるシオンは何度も頷き返すと、いいデータを取って来るのもいいが、命だけは落とすな――と、心配する。

「有難う」

「いいさ」

 多くの者が、外界へ赴くことを心配する。

 だが、多くの言葉は不要で、これ以上は続かない。

 シオンは黙々と食事を続け、同僚は新しいブラックコーヒーを注ぎに行き、一気に飲み干す。

「戻ってきたら、連絡する」

「ああ、気を付けて――」

 それを別れの挨拶とし、二人は別れる。

 その後、シオンは溜まっている仕事を片付けようと研究室へ戻ると、一人で黙々と仕事をこなしていく。そしてきりのいい部分で一旦仕事を止めると、携帯電話を取出し誰かに電話を掛ける。

 相手は、クローリア。

 勿論、すぐに電話に出てくれた。

 シオンから電話が来たことが嬉しいのだろう、クローリアの声音が弾んでいる。その可愛らしい反応にシオンはクスっと笑うと、今日はいつもより早く帰宅できることを伝えた。シオンからの言葉にクローリアは驚いたのか、慌ただしく動き回っていることを電話口から聞こえる音で知る。

「落ち着く」

『は、はい』

「怪我をしないように」

『き、気を付けます』

「クローリアが怪我をしたら、入院で……俺が悲しい。あと、美味しい飯が食えなくなってしまう」

『シ、シオン様』

「本当だよ」

『……はい』

 シオンの予想では、電話口のクローリアはこれ以上ないというほど顔を赤面させているだろう。可哀想なことをしてしまったと、シオンは申し訳なさそうな表情を浮かべるが、先程の言葉は偽りではなく本物。シオンはクローリアを大切にしているので、怪我は以ての外。
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