アメット
「うん?」
「ご、御免なさい」
「料理は、美味いよ」
「い、いえ……」
クローリアは何か言いたそうな雰囲気であったが、頭が混乱し上手く言葉が発することができないでいた。余程恥ずかしいことなのだろう、クローリアは視線を逸らすと、黙々と自分が作った料理を食べはじめる。だが、緊張をしすぎているのか、全く料理の味がしなかった。
彼女の態度から「今、何を考えていたのか」という質問をしてはいけないと察したシオンは、別のことを尋ねる。
勉強は、捗っているか。
問題は、難しくないか。
わからなかったら、聞いてもいい。
シオンの心配と心遣いにクローリアは食事の手を止めると、頭を振りながら今のままで十分と伝える。
「だ、大丈夫です。ちょっと難しい問題もありましたが、時間を掛ければ……勉強は、面白いです」
「勉強が好きだね」
「知らないことを知るのは、楽しいです」
「クローリアが楽しんでいるのなら、良かった」
「これも、シオン様のお陰です」
「俺は、切っ掛けを与えただけに過ぎないよ。その後は、クローリアの努力次第。勿論、料理も……」
言葉と共に差し出したのは、空になった一枚の皿。綺麗に平らげられた皿は、彼女が作った料理が格別だったという証拠。クローリアは差し出された皿を受け取ると、いそいそとキッチンへ向かい、料理を並々と盛る。それをシオンの目の前に置くが料理を盛り過ぎた影響で、一部がこぼれてしまう。
「今、拭きます」
「いや、俺がやるよ」
「いえ、私が――」
「クローリアは、たまに休んだ方がいい」
「私は、家政婦です」
いつになく強い口調でシオンの言葉を封じると、クローリアはキッチンへ雑巾を取りに向かう。彼女にとって「家政婦」という職業は誇りに近いものらしく、これに関しての仕事は全部自分で行おうと考えていた。だからシオンが「自分がやる」と言っても、首を縦に振らなかった。