アメット
いそいそと甲斐甲斐しく働くクローリアに、シオンは自分が選んだ人物は間違いないと改めて認識する。
階級など関係ない。
その思いで行動していたからこそ、クローリアに出会うことができた。シオンは宗教概念を持つ人物ではないが、運命を司る神が存在していたら彼は感謝していただろう。また、彼女に好意を持ったことは後悔していない。
目の前で行き来しているクローリアを眺めていたシオンは、自分の表情が緩んでいることに気付く。今の表情をクローリアに見られることに羞恥心を覚えたのか、軽く頬を叩き表情をもとに戻そうとする。しかし頬を叩いている音が彼女の耳に届いたらしく、首を傾げる。
「……何でもない」
「気になります」
「い、いや……」
最初は恥ずかしくて口に出すのを躊躇っていたが、クローリアの真っ直ぐな瞳で見られると罪悪感の方が強くなってしまう。
クローリアには甘い。
というか、惚れた方の負け。
アイザックがこの場所にいたら、大笑いしていただろう。完全に、シオンの負けであった。
「クローリアといられて、嬉しいってことだよ」
「……シオン様」
突然すぎる告白に、二人は紅潮してしまう。
シオンはあたふたしながら誤魔化すが、言葉はしどろもどろになってしまう。そして受け取った皿に盛られていた料理を一気に平らげると、クローリアの顔を見ていられなくなったのか自室へ駆け込む。一方、取り残されたクローリアは何度も溜息を付きながら、後片付けを行う。
心の中にもやもやとしたモノが広がっているが、決して不愉快というものではない。どちらかといえば温かく、今という時間に幸福感を覚える。クローリアはシオンの自室がある方向を一瞥すると、満面の笑みを浮かべシオンが自分を選んでくれたことに感謝するのだった。
髪をタオルで拭きながら浴室から出て来たクローリアは、キッチンで飲み物を一気飲みしているシオンを発見する。シオンも風呂上がりのクローリアに気付いたらしく、飲み物を飲む手を止めると、冷蔵庫から新しいペットボトルを取り出すと彼女の目の前に差し出した。