アメット
「有難う……ございます」
クローリアはペットボトルを受け取ると、蓋を開け少しずつ中身を飲みはじめる。風呂上りということで冷たい飲み物は美味しく、水分が身体全体に行き渡っていく。シオンはペットボトルの中身を飲み干すと、別の部屋からドライヤーを持って来ると今度はそれを差し出す。
「早く乾かした方がいい」
「は、はい」
ドライヤーを受け取ろうとクローリアは手を差し出すが、なかなか渡そうとしない。するとシオンは表情を綻ばせ、椅子に腰掛けるように合図を送る。一瞬、何を言いたいのかわからなかったが、過去に同じことがあったことを思い出した瞬間、これから何をされるのか気付く。
「じ、自分で……」
「いいじゃないか、たまに」
以前は雇い主と家政婦の関係だったが、今は互いの想いが通じ合っている。だから遠慮しなくていいと、シオンは手招きしクローリアに早く椅子に腰掛けるように促す。シオンの手招きにクローリアはコクコクと頷くと、オドオドとした態度で椅子に腰掛けるが緊張は続く。
「髪、綺麗になったね」
「毎日、手入れしていますので……」
「来た当初は、もっと酷かった」
過去を思い出しつつ、シオンはドライヤーのスイッチを入れる。その瞬間、暖かい風がクローリアの髪に触れる。髪を乾かされている間、クローリアは身体を硬直させたまま終わるのを待つ。一方シオンは風邪をひかせてはいけないと、丁寧に髪を掬いながら乾かしていく。
「クローリア」
「はい!?」
「そんなに、驚かなくとも……」
「ご、御免なさい」
「いいさ。で、話だけど……」
シオンもまた緊張しているのだろう、言葉は途切れ途切れになってしまう。シオンがクローリアに話したのは、これからも一緒にいてほしいというもの。勿論。将来父親の後を継いだ時も。
これ以上ない言葉にクローリアは胸がいっぱいになってしまい、何も言えなくなってしまう。クローリア自身、ずっとシオンと一緒にいたいと考えていたが、身分違いの願いと諦めていた。しかしシオンに「一緒にいてほしい」と言われたことに、大粒の涙が頬を伝う。