アメット
最低限の掃除は行っているのか、小汚いというイメージはない。しかしよくよく見れば、部屋の隅が汚れている。それに日々仕事に忙殺されている影響か、パソコンが置かれている机の周辺が汚れていた。勿論それらが目についたが、それ以上にシオンの寝室に入れたことが嬉しかった。
「先に寝ていて」
「シオン様は?」
「明日の仕事のチェック」
シオンの言葉にクローリアは頷くと、ゆっくりとベッドに腰を下ろす。だが、何か思うことがあったのか、なかなか横になることができない。腰掛けているだけのクローリアに「寝ないのか?」とシオンは言葉を投げ掛けると、横になっている方が身体が休まると伝える。
「は、はい」
緊張が続いているらしく、一瞬横になるのを躊躇ってしまう。それでもシオンの言葉があると自分自身に言い聞かせ、ベッドに横たわった。同時に毛布を引き上げると、スッポリと被ってしまう。その一連の動作にシオンは大笑いすると、椅子に腰掛け明日の仕事のチェックをはじめる。
すると息苦しくなったのか、クローリアは布団から顔を出すと、大きなシオンの背中を眺める。
刹那、頬が焼けるように熱くなってくる。
改めて思えば思うほど、何とも表現し難い感覚に襲われる。「これが恋」と気付けば、今以上に心が温かくなっていく。
「好き……です」
無意識に、想いが言葉に変化する。
今、自分が何を発したのか理解すると、クローリアは思わず毛布を被ってしまう。幸いシオンの耳には届いていなかったらしく、毛布から顔を出せばシオンは黙々とパソコンに向かって作業を続けている。聞こえていなかったことにクローリアは胸を撫で下ろし、そっと枕に顔を埋めた。
ふと、眠気が襲ってくる。
そう思った瞬間、意識が暗闇に落ちた。
どれくらい時間が経過した頃か、ベッドに何か重い物が乗り掛かってくる感触にクローリアは目覚める。
「起こした?」
シオンの尋ねにクローリアは頭を振るが、自分の目の前にどうしてシオンがいるのか疑問に思う。だが、記憶が鮮明に蘇ったのか、か細い悲鳴を上げると枕に顔を埋めてしまう。そんなクローリアの態度にシオンは背中を何度か叩くと、彼女に寄り添うように横たわった。