アメット

 枕はひとつしかないので、共同で使わないといけない。シオンはクローリアを抱き寄せると、彼女と密着しながら眠ることにする。しかし突然密着されたことに、クローリアの眠気は吹き飛んでしまう。

 背中から抱き締められている状態なので、現在の態勢ではシオンの顔は見えない。それがクローリアにとって幸いで、もしシオンの顔を見られる状態であったら、クローリアは完全にパニックになっていた。それでも今の状況が心地いいのだろう、決して逃れようとはしない。

「……シオン様」

「何?」

「あ、あの……」

「眠れない?」

「……はい」

「俺の昔の話、しようか」

「いいのですか?」

「つまらないかもしれないけど」

「か、構いません」

「なら、俺が――」

 シオンが語るのは、自分が科学者になる前の出来事。

 統治者一族に産まれ、将来父親の後を継ぐのを周囲から期待されていた。勿論、シオンもそのつもりで生活していた。

 シオンの父親グレイは他の統治者一族とは違い、ドームと外界の状況を気に掛けていた。それに伴い多くの科学者が外界の浄化を試みようとしているが、なかなか成功に至らない理由も知っており、このプロジェクトが本当に成功するのか――前々から心配していという。

 当時のシオンも同様に、これらのことを気に掛けていた。だから多くの知識を得ようと、必死に勉強を行った。

「シオン様は、どうして科学者に?」

「興味……といったら、怒られるだろうな。好奇心……いや、父が気に掛けているプロジェクトを成功させたかった。俺一人の力でどうこうできる問題じゃないけど、地位に胡坐をかいていたくなかった」

「立派です」

「そうかな」

 見方によっては「後継者の道楽」とも捉えられなくもないが、何もしないで一ヶ所に止まっていられるほど、シオンの神経は図太い方ではない。それにいずれ父親の後を継ぐ身として、ドームに蔓延している階級制度の本当の姿を見たかった――という気持ちもあった。
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