アメット
クローリアが枕を抱えながら戻って来ると、いじけているシオンの姿を目にする。真面目な印象が強いシオンの子供っぽい態度に、クローリアは何と声を掛けていいかわからないらしく、オドオドしながら近付く。
「シオン様」
「酷いな」
「酷い?」
「一緒に寝ようと言ったじゃないか」
「ですので、枕を……」
自分が仕出かしてしまったことで、シオンの機嫌を悪くしてしまった――と考えたのだろう、クローリアの表情が暗くなる。
勿論、本気で言ったわけではなく、冗談で言った言葉であったが、クローリアが真剣に受け取ってしまう。このままでは泣いてしまうと判断したのだろう、シオンはクローリアの手を取ると「冗談」と言うと、そのような性格だからついついからかいたくなってしまうと話す。
「ほら、寝る寝る」
「は、はい」
クローリアはベッドに枕を置くと、普段では考えられない速度でベッドに横たわる。これも緊張しているからか、横たわると同時に枕に顔を埋めてしまう。だが、何か思うことがあったらしく、埋めていた顔をゆっくりと上げると「くっついてもいいですか?」と、聞く。
「聞くまでもないよ」
「な、なら……」
「いいよ」
満面の笑みを浮かべながら、シオンはクローリアを迎え入れる。一方クローリアは顔を紅潮させながら、シオンの腕に抱き付く。異性に自ら抱き付くというのはこれがはじめてなので、意識が半分飛んでしまいそうになる。しかしそれ以上に、シオンの体温が心地よい。
「はじめてだな」
「何を……ですか?」
「こうやって、女性を抱き締めるのは――」
「……嬉しいです」
「俺こそ、嬉しいよ」
外見や地位しか見ていない異性より、内面をシッカリと見てくれる女性の方が何倍もいい。統治者一族として生活し続けていたら、そのような人物と強制的に結婚していただろう。下部の世界に目を向け、その世界で暮らすことを望んだからこそ、クローリアを抱き締めるまでに至る。