アメット

「……温かい」

「暑いですか?」

「そういうわけじゃない。気持ちいいから、眠気が……このまま抱き締めながら、寝ちゃおうかな」

「わ、私は……」

 その先の言葉は、しどろもどろになっていたのでシオンは上手く聞き取れないでいた。それでも離れることを止めようとしないクローリアの態度から、シオンは彼女が何を言いたかったのか悟る。

 このままでいい。

 それが、クローリアの答え。

「寝る」

「……はい」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 言葉と共に、シオンはクローリアを抱き締めながら眠ることにする。余程疲れが溜まっていたのか、すぐに熟睡してしまう。すぐに聞こえてきたのは、規則正しい寝息。しかしクローリアは熟睡することができないらしく、ただシオンに抱き締められながら朝が来るのを待った。

 乱れることなく打ち鳴らされるシオンの心音が、クローリアの耳に届く。その音は彼女にとって心地いいもので、無意識にシオンの胸に顔を埋めると恍惚に似た表情を浮かべる。すると顔を埋めたことによりシオンが目を覚ましてしまったらしく、間延びした声音の後欠伸を繰り返す。

「どうした?」

「す、すみません」

「眠れない?」

「ちょっと……」

「やっぱり、離れた方がいい?」

「い、今のままがいいです!」

 いつものクローリアとは信じられないほどの大声に、シオンは目を丸くすると、クスクスと笑いだす。シオンの反応にクローリアは急に恥ずかしくなったらしく、耳まで真っ赤に染めると、あたふたしてしまう。また、顔を見られなくなってしまったのか、俯いたままでいる。

 そんなクローリアの背中をシオンは優しく撫でると、恥ずかしがらないように背中を向けて寝た方がいいのではないかと提案する。シオンの提案にクローリアは一瞬躊躇うが、このままでは寝られないので背を向けることにする。それでも緊張は続き、眠気がやってこない。
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