アメット

 中には食べられない料理も作ってしまうが、シオンはそれについて言及することはしない。

 一生懸命に頑張っている。

 今、料理を作っているのは彼女。

 だからこそ気分をへこましてしまうことは口にせず、遠くから温かく見守っている。

 そしてレシピのアレンジが成功した時は「美味しい」と言い、クローリアの努力を労うのであった。

 片付けを終えた、クローリアが戻って来る。

 椅子に腰を下ろすと、フォークを手に取ると「いただきます」という言葉と共に、食事をはじめる。

 今日は上手く作れたのだろう、クローリアの表情が綻ぶ。

 それに余程お腹が空いていたのか、いつもより食事の速度が速い。

「さっきの電話だけど……」

「誰からですか?」

「アムルだ」

 その名前に、クローリアの手が止まる。また、何か思うことがあるのだろう、オドオドしている。

「一体、何を――」

「養女の話だ」

「……養女」

 シオンの側にいるにはこの方法しかないが、まさか本当に養女になれるとは思ってもみなかったのだろう、クローリアは混乱してしまう。

 だが、アムルの養女になれば階級が上がるので、自分の階級を気にしなくていい。

 しかし、今すぐに養女になるわけではないと話す。

 今養女となってしまえば、シオンよりクローリアの方が階級が上になってしまい、家政婦としてこの場所にいられなくなってしまう。

 だから父親の跡を継ぐ時に――と伝え、今は最下層の住人として過ごして欲しいという。

「わかりました」

「で、喜んでいた」

「アムルさんですか?」

「そう。養女となれば、義父(とう)さんだ」

「義父さん……」

「大事にしてくれる」

 シオンの言葉に、クローリアは無言で頷き返す。

 一時的の親子関係であったが、クローリアはアムルの優しさを感じることができた。

 あの人物の養女になれることは、最高の幸せといっていい。

 それに階級が上がれば、本当の意味でシオンと恋人同士になることができる。

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