アメット

 まさかシオンが、ここまで考えていたとは――

 クローリアは、嬉しそうに微笑む。

「改めて、よろしく」

「こ、こちらこそ」

「で、もう一枚」

「はい!」

 差し出されたのは、空っぽの皿。

 クローリアはそれを受け取ると、いそいそとキッチンへ向かい、食パンを焼く。

 焼き上がるまでの間、シオンはコーヒーを飲みながら待つ。

 そしてパンが焼き上がるとバターをたっぷりに塗り、熱々のパンを頬張る。

 最近、食欲があるのはクローリアの料理が美味しいからというのは内緒で、ただ黙々とテーブルに並べられている料理を平らげていく。

 朝食後、二人で一緒に散歩に出掛けることにした。

 外では雇い主と家政婦の関係を崩すことはできないので、恋人同士ということは隠す。

 それでも互いの心は繋がっているので、笑い合いひと時を過ごす。

 その時、事件が発生する。

 そう、突然雨が降りだしたのだ。

 朝食を取ることに集中していたので、今日の天候スケジュールを確認し忘れていた。

 ずぶ濡れになってしまったが、それさえも面白かったのだろう、二人は大笑いしてしまう。

 だが、風邪をひいてはいけないと散歩を中断しマンションに戻ると、シャワーを浴び着替える。

 アクシデントに見舞われた散歩であったが、それさえもいい思い出。

 改めて天候を確認すれば、夕方には上がるという。

「晴れたら、また出ようか」

「はい」

 クローリアはこれ以上ないというほどの笑顔で、シオンからの誘いに返事を返すのだった。


◇◆◇◆◇◆


「プロポーズしたのか」

「悪いか」

 ムキになって言い返してくるシオンに、アイザックは噴き出してしまう。

 別に何か文句があって言ったわけではなく、そのような関係になるまで進展していた――ということに、アイザックは驚きを隠せないでいた。

 しかし関係を否定することはせず、いいのではないかと肯定する。

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