アメット

「好き……なんだろう」

「……うん」

「なら、いいじゃないか」

「アイに言われると、安心する」

「だけど……」

「うん?」

「お前と一緒になると――」

 一度、そこで言葉を止める。

 そして次に発した内容というのは、クローリアの立ち位置と今後について。

 今は自由とまではいかないが、定期的に実家がある最下層へ帰郷することができるが、養女となってA階級の人間となった場合、果たして自由に帰郷できるのか――

 と、アイザックはその部分を指摘する。

 世の中、知っていいことと悪いことが存在する。

 そのひとつが、クローリアが最下層の人間ということ。

 知られてしまったら、煩い者が騒ぐのは間違いない。

 また、最下層の人間が統治者一族――それも跡取りと結婚するなど、絶対にあってはならない。

 などなど、辛辣な言葉を繰り返すかもしれない。

 アイザックは、シオンから階級が上の者の心情を聞いているからこそ、クローリアの身を心配する。

 シオンのことだからクローリアの立場を懸命に守るだろうが、守るのにも限界がある。

 それにこのことが足枷となってしまい、統治に影響が出ないかとアイザックは危惧する。

「……そうだな」

「悪い。言い過ぎた」

「いや、正しい」

 クローリアはシオンと一緒にいることを望んでいるが、同時に大事な家族を失ってしまう。

 アイザックの言葉で、クローリアが時折見せる表情の意味を悟り、シオンは申し訳なくなってしまう。

「なら、別れるか?」

「そ、それは……」

「きちんと事情を説明し、納得して貰わないといけないんじゃないか? と、僕は考えるけど」

「彼女の両親?」

 その質問に対し、アイザックは頷き返す。

 いくら統治者一族だからとはいえ、けじめはきちんとつけないといけない。

 ましてや一緒になってしまえば、クローリアが最下層の人間だったということは隠される。

 だからその前に、シオンの口から簡単でいいから説明しないといけない。


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