アメット

「仕事が立て込んでいる時は、仕方ないと諦めている。休暇の時は、半日寝ているけど……」

「お前は、人一倍頑張るからな」

「頑張らないと、いけないから」

 曖昧な言い方をしているが、シオンの正体を知っているからこそ、アイザックは本当の意味に気付く。

 統治者一族として使命を背負っており、父親の意志の為に懸命に働いている。

 だから、処理できる以上のモノを背負ってしまい、アイザックに倒れないか心配されてしまう。

「この場は、僕が片付ける」

「いいのか?」

「二人は、戻っていていいよ」

「それより、食事はいいのか?」

 突然の同僚からの質問に、シオンとアイザックは同時に身体を停止させる。

 よくよく考えれば、誤魔化しのネタとして「何処かに食べに行きたい」と言ったことを覚えている。

 何も言えないでいるアイザックの代わりにシオンは「片付けが終わるのを待っている」と、再度誤魔化す。

「なら、俺がやる」

「疲れていたんじゃないのか?」

「飯の方が大事だ」

「なら、言葉に甘えて……」

「後で、貸しを返す」

「その言葉、楽しみにしている」

 言葉と共に、同僚は怪しい笑い方を行う。

 その表情に二人は「何か、とんでもない約束をしてしまった」と後悔するが、約束をしてしまったのだから、もう取り消すことはできない。

 一抹の不安を覚えつつも二人は部屋を後にすると、何処へ行こうか相談する。

 「食事に行く」は誤魔化しであったので、今腹が減っているわけではない。

 といって研究所に居続けると「行かなかったのか?」と、聞かれる恐れがあるので、外に茶を飲みに行くことにした。




 二人の目の前に置かれているのは、熱々の湯気が立ち昇る紅茶。

 いつもは甘い飲み物を飲まない二人だが、疲れているということで砂糖を入れている。

 同時にカップを手に取り、胃袋に流し入れる。

 そしてこれまた同時に盛大な溜息を付くと、アイザックが先に口を開いた。


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