アメット

「落ち着く」

「だね」

「折角だから、何か食べるか?」

「腹、いっぱいなんじゃないか」

「甘い物なら」

「それなら、俺も――」

 と言いつつ、互いにメニュー表を見る。

 甘い物は意外に腹に溜まりやすかったりするので、選ぶのなら少ない量の方がいい。

 そう考えシオンが選んだのは、生クリームが添えられたシフォンケーキ。

 アイザックはシオンと別の物を選ぼうとしたが、いいのが見付からない。

 メニュー表を閉じると、シオンと同じ物でいいという。

「呼ぶぞ」

「いいよ」

 シオンはウエイトレスを呼ぶと、シフォンケーキを二つ注文する。

 シオンから注文にウエイトレスは復唱すると「暫くお待ち下さい」という言葉を残して、キッチンへと戻って行った。

「式は、どうするんだ」

「式?」

「結婚式だよ」

「まだ、早いよ」

「いずれ、やるだろう?」

「まあ……ね」

 シオンは特に結婚式にこだわりはなく、やらないのならそれでいいと考えていた。

 しかし、結婚式は女性の憧れと耳にしているので、クローリアの気持ちを優先しないといけない。

 それに統治者一族の者が式を挙げないというのは、何かと問題が多くおかしな噂を立てられる。

 それらを総合するとクローリアと結婚する場合、きちんと式を挙げ多くの者に参加してもらわないといけない。

「参加は無理か」

「悪い」

「いいさ。行ったところで、上の者に差別されるのがオチだから。その前に、行く勇気が湧かない」

 だからといって、二人が結ばれることを祝福しないわけではない。

 アイザックは上の者だけが行う結婚式とは別に、研究所の仲間だけで祝いの会を開くと約束してくれる。

 アイザックの優しさにシオンは嬉しそうに微笑むと、この場の支払いを任せてほしいと言い胸を叩く。


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