アメット

「しかし、見事に……」

「だな」

 シオンの感想に応えるように、アイザックも呟く。

 彼等の目の前で巨大化したのは、トマトの苗木。

 普通、トマトの苗木は大人の背丈程度なのだが、この苗木は背丈以上。

 それに四方八方に枝を伸ばし、開いているドアから顔を覗かせていた。

 それに巨大化したのは背丈だけではなく、実っているトマトも赤く熟れ巨大だった。

 同僚の話では、巨大化したのはこの苗木一本だけではない。

 部屋の中で育てている植物全てが巨大化してしまい、完全に失敗といっていい。

 といってすぐに処分するのは勿体ないので、どのような原因で巨大化してしまったのか、きちんとデータを取ってから処分しないといけない。

 だから、手が空いているシオンとアイザックが呼ばれた。

 納得したかのように二人は頷くと、無造作に伸びた枝を掻き分けながら部屋の中に立ち入る。

「誰かいるか?」

「おっ! その声は――」

「無事か?」

「何とか」

「何処にいる」

「一番奥だ」

 その声音に導かれるように、シオンとアイザックは部屋の一番奥へと向かうが、途中で脚を取られてしまう。

 床に顔面を打ち付ける寸前でアイザックに救われたので、シオンは強打を免れるが、これだけあちらこちらに枝が伸びていると歩き難い。

 それに植物の独特の臭いが、鼻に突く。

 何とか奥で作業をしている者の側に到着すると、歩くだけで疲れてしまったのだろうシオンは溜息を付く。

「悲鳴が聞こえたが、大丈夫か?」

「倒れそうになった」

「この状態なら、仕方ないか」

「で、何をすればいい」

「採取を頼みたい」

「了解」

 軽い口調で返事を返すと、床に置かれている箱から採取に使用する道具を取り出す。

 それを用いてシオンとアイザックは、データ収集に必要な植物片をせっせと集めだす。

 驚いたことに今もこの植物は成長しているらしく、採取の為に切断した箇所から新しい枝が誕生する。


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