アメット

「さて、やるか」

 その一言で、参加者全員の目付きが変化する。

 誰もが互いに牽制し合い、自分の勝利を願う。参加者は円を作ると、一斉にじゃんけんしだす。

 勝利者は拳を突き上げ喜び合い、敗者は自分の運の無さを嘆き落胆するが、これで決まったわけではないので次の勝利に掛ける。

 何度かじゃんけんが繰り返され、次々と勝利者が決まっていく。

 アイザックは二回目で勝利者となり、円の外でシオンに「早く勝て」と、声援を送る。

 しかしシオンは不運をいまだに引き摺っているらしく、なかなか勝者になることができない。

 それどころか、最後の二人に残ってしまう。

 そして――

 敗者が決定した。

「ア、アイ」

「仕方ない」

「まさか、俺に……」

 シオンとのじゃんけんに勝利した者は、最下層へ行くことを免れたことが相当嬉しいのか、目元が薄っすらと涙が滲んでいる。

 一方敗者となったシオンは自分の運の無さを呪いつつ、落胆している。

 その悲惨とも取れる姿にアイザックは同情たっぷりの視線を向けるが、言葉が続かない。

「……行く」

「頑張れ」

「励ましの言葉より最下層の調査が終わった後、美味しい飯を驕ってくれる方が何十倍も嬉しい」

「わかった」

「で、誰のもとへ行って話を聞けばいい? 今回は調査の名目で行うのだから、責任者がいるだろう」

「確か、クライト博士」

「あの方……か」

「適任だろう」

「……まあね」

 「苦手な上司」と言いそうになるが寸前で言葉を封じるが、アイザックだけはシオンが何を言いそうになったのか気付く。

 だが、上司の悪口を言い合う関係なのでシオンの身の安全を優先し黙認する。

 アイザックを含めじゃんけんに参加していた同僚達に見送られながら、シオンは最下層の調査依頼を引き受けた苦手な上司のもとへ向かう。

 イデリア・クライトは四十代前半の男で、シオンより階級が上。

 一応、高い知能の持ち主だが、いかんせん階級を盾に取る人物だ。

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