アメット
イデリアを目の前に、シオンは何処か落ち着きがない。
流石苦手としている上司だけあって、身体が拒絶反応を見せている。
それでも相手は階級が上の上司なので、自分に「落ち着くように」と言い聞かせつつ、イデリアの上目線過ぎる言葉の数々を黙って聞くしかなかった。
「で、今回は……」
キリのいい部分で、シオンはイデリアにそう尋ねる。
すると彼の尋ね方が気に入らなかったのか、微かに眉が動く。
しかし反応はその程度で、イデリアは今回の調査について話し出す。
主だった調査は最下層の大気状況の把握で、それ以外は特に行わなくていいと言う。
「下へ行く許可は下りている。速やかに最下層へ赴き、調査を行う。別に、調査は形だけでいい。行なったという実績があれば、奴等も煩いことを言ってこないだろう。全く……面倒だ」
イデリアが最後に発した言葉こそが、彼の本音といえよう。
最下層の住人に付き合っているほど暇ではなく、そもそも文句を言ってくる方がおかしいと考えていた。
だから「面倒」と言い放ち、仕方なく調査を行なう。勿論「してやった」と、恩着せがましい態度を取って。
「これを持っていけ」
「これは?」
「最下層の地図だ」
「そのような物が」
「一応、最下層であっても管理の対象だ。だから、地図は存在する。滅多に……いや、殆んど使用しない。だが、あった方がいいだろう。最下層など、君も行ったことがないだろう」
「ですので、助かります」
「まさか、このような機会で使用するとは……わからないものだ。処分していい代物なのに」
シオンは最下層の地図のデータが収められている機械を受け取ると、イデリアに向かい軽く頭を垂れ最下層の調査に向かうことを告げる。
それに対し、面倒そのもの態度で見送るのがイデリア。
彼は片手をヒラヒラと振り「早く行け」と行動で示し、シオンを追い払う。
「行ってきます」
「ああ、頼む」
イデリアの素っ気無い言葉にシオンは軽く頭を垂れると、そそくさと退出する。
同時に最下層へ赴かないといけない状況に気分が重くなり、溜息を付く。
だが、じゃんけんで負けてしまったのだから、行かないわけにはいかない。
シオンは再度溜息を付いた後、準備を進めた。