アメット
一通りの準備を追え、研究所の廊下を歩くシオンを呼び止めたのはアイザック。
突然の友人の登場にシオンは苦笑すると「厄日が続く」と本音を言うが、決まってしまったのだから素直に調査に行ってくると話す。
それに対しアイザックも苦笑すると、無事に帰って来るように言う。
「大丈夫だよ」
「いい噂は聞かない」
「それは知っている。何の因果か、事前に最下層について調べていた。まさか、こうなるとは……」
「予知だ」
「洒落にならない冗談だよ」
「悪い」
「怒ってはいない。ただ、このようなことがなければ、最下層の住人に目を向けないのか……って」
「階級社会の今、自分より下の者など見向きもしない。ただ、調査をするだけ進歩したのか」
「と、思いたい」
しかし本当に進歩したというのなら、もっと積極的に調査を行ない最下層の環境改善に取り組んでいる。
現在の状況のままにしておくということは、やはりどうでもいい者達と思っているからだろう。
現にイデリアも、どうして調査を行なわなければいけないという雰囲気だった。
「行く」
「ああ」
それらを別れの言葉とし、シオンとアイザックは別れる。
その後、シオンはドームの中心部分に聳え立つエレベーターに向かう。
イデリアの話の通り使用の許可は下りていたが、管理者全員の哀れみと同情たっぷりの視線が痛い。
また、無事に帰還するように祈られてしまう。
「此方からは、最下層への直通は行なえません。下の階で一度降り、手続きをしなおして下さい」
「何、手続きなど簡単に下ります。貴方は、この階層の人間。下の者は、上の者に逆らえない」
「だといいですが」
「何か心配でも?」
エレベーターを管理している者達の話の通り、下の者は上の者に逆らうことなどない。
それでも何かトラブルが発生し、簡単に許可が下りなかったらどうなるのか。
と、心配していると彼等に話すと、シオンの心配が面白かったのか一斉に笑い出し「それはない」と、返す。