アメット

 分厚い防護服を纏い、身の危険を承知の上で外界でのデータ収集を行う。

 全ては過去の清算と、より良い未来の為に。

 しかしその「より良い未来」は程遠く、計画は殆んど裏目に出る。

 薄茶色のベールの濃度は高く、それどころか人間の努力を嘲笑うかのように濃さを増しているかのようだ。

 そして時折襲い掛かる気まぐれの天候は、データ収集を行う者の生命を脅かす。

 この大地は――

 ふと、男は想像を巡らす。

 大地は自己防衛のもと、人間を排出しているのではないのか。

 人間の影響で生命の大半が失われた世界。その原因を作ってしまった人間が再び舞い戻らないようにと、大地そのものが牙を剥く。

 その何とも馬鹿げた考えに、ファンタジー小説の読み過ぎではないかと自己嫌悪に陥る。

 男は物事の白黒を明確にする科学者であって、非現実的な出来事を科学的に証明する役割を持つ。

 男は科学者がいい加減な妄想にとりつかれていいのかと自分に言い聞かせると、防護服の上から頭を叩く。

 そして何をしているのかと情けなさたっぷりの嘆息した後、先程の命令に従うことにした。

(本当に、今日は……)

 悪い出来事が立て続けに起こったことにより精神が疲弊し、結果「妄想」という症状が出たのだと結論付けると、人間が造り出した唯一の安住の場所へ脚を向け暫しの癒しを求めた。
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