アメット
「何故?」
「申した通り、階級が下の者が上の者に逆らうことはできない。トラブルが発生したら、罰を受けるのは下の者」
「……なるほど」
「ですから、安心して最下層へ行って下さい。このような言い方は、喜ばしいものではないですね」
「誰も好き好んで、あの場所へ行きたいとは思いません。今回は仕事のようですが、大変ですね」
仕事であったとしても、最下層へ行かなければいけないのは不幸そのもの。
そのように言いたいのか、彼等の同情は続く。
それに対しシオンは、無言を貫く。
彼等の言い方は褒められたものではないが、最下層へ行くことを拒む気持ちがないわけではないので、批判派できない。
「ところで、防護マスクの準備は?」
「大丈夫です」
「それでしたら、安心ですね。最下層は、この階層と違い随分大気が汚れていますので……」
「らしいですね」
「では、お気を付けて」
その言葉と同時に、エレベーターの扉が開く。
シオンは管理者に一言礼を言い乗り込むと、一度下の階層へ向かう。
案の定、管理者の言葉は正しかった。
絶対的ともいえる階級制度の中、下の者が上の者に逆らうことはしない。
彼等の態度は明白で、何処かシオンを恐れていた。
ひとつ違うだけで――
シオンと彼等の階級は、ひとつしか違わない。
彼等の天井に当たる部分に暮らしているだけで、このように恭しい態度を取ってくる。
これにより、優越感に浸るものもいるのだろう。
ふと、シオンは自分の上司にあたる人物が日頃見せている、偉ぶった態度を思い出す。
相手は何も文句を言わず、ペコペコと頭を垂れる。
その状況が生まれた頃から日常の一部となっていれば、それが当たり前と勘違いする者だらけになってもおかしくはない。
だからといってシオンが優越感に浸れるわけがなく、どちらかといえば止めて欲しいが本音だ。
「今、すぐに……」
なかなか手続きが終わらないことに、彼等が焦りだす。
手続きの不備でシオンの逆鱗に触れたくないと考えているのだろう、あたふたと動き回っている。
切羽詰る彼等にシオンは咳払いすると、もっと落ち着いてやった方がいいと注意し、遅くなっても怒らないと話した。