アメット
エレベーターが最下層に到着し、扉が開く。
それと同時にシオンの視界に映り込んだのは、薄汚れた白い人工物が四方を覆う一室。
通常であったらエレベーターを管理している者が待機しているのだが、この部屋にはそのような人物がおらず、唯一存在するのは物々しい機械の数々。
(なるほど、コンピューター管理か)
最下層の住人は、管理する能力を持ち合わせていない。だから、コンピューターに制御を任せている。
それに置かれている機械はエレベーター利用者の生態データを読み込む物で、階層が上の者でなければ通り抜けできないように設定しているのではないかとシオンは予想する。
(だとしたら……)
機械が、その者の生態データを識別する。
不可と判断すれば、容赦なく制裁を加える。相手は機械であって、血の通った人間ではない。
プログラムに忠実に働き、役割を果たしていく。
そのような物が最下層に置かれていることを知らなかったシオンは、背筋が凍りついた。
(あるということは噂に聞いていたが、本当に実在していたとは……アイが聞いたら、驚くだろうな)
階級第一主義もここまでくれば大したものだと、シオンは皮肉めいた笑いをする。
所詮、上の階級の者は最下層に対し何ら特別な感情を抱くことはなく、どのように生きようが死のうが自分達には関係ないという感じなのだろう。
だから最下層に、このような機械を設置する。
最下層の住人がこの部屋に立ち入ったら、問答無用で殲滅するようにプログラムされた物を――
シオンは自身の生態データを認識させる為に、左手の甲を機械に翳す。
すると階級が最下層の者ではないと判断され、機械が発する独特の音声が流れ通行が許可される。
自分が攻撃されないとわかっていてもやはり気分がいいものではないので、シオンは盛大な溜息を付いていた。
(さて、どのように調査をするか……。やっぱり、場所によっての濃度の変動を調べた方がいいか)
適当に調査を済ませて帰還すればいいのだが、そのことに気が引けてしまうのがシオンのいいところであり悪いところ。
結果、貧乏籤を引く回数も多い。
シオンは目の前に表示されるホログラム表記の地図を眺めながら、どの場所を優先して調査していけばいいか計画を練っていく。
調査して欲しいと苦情があったのだから、やはり住民が暮らしているエリアを重点的に調査した方がいいだろう。
あとは時間が残っていたら郊外を調査すればいいだろうと計画を立てると、シオンは物々しい機械が置かれている部屋を後にし、薄汚れた最下層の街へ出向いた。