アメット

 現在、一人のシオン。自分の身は自分で守らないといけないので、神経を研ぎ澄ませ周囲を見回す。

 幸い、怪しい人物はいない。というか、漂う雰囲気がおかしい。

 ネット上には犯罪の巣窟と散々なことを書かれていたが、実際の最下層はのんびりとした時間が流れている。

(何か、おかしい)

 得た情報と違うことに不安を抱くが、殺伐としている雰囲気より此方の方が何百倍もいい。

 そう自分に言い聞かせながら、シオンは人々が暮らす町の中心部へ地図を頼りに向かう。

 その途中、案の定防護マスクを身に付けているシオンに不穏な視線を向ける住民が多く見受けられた。

 いくら階級が上の人間とはいえ、現在いる場所はドームの最下層。

 見慣れない防護マスクを身に付けている人間がいれば嫌でも目立ってしまい、人々の視線が集まるのは仕方がない。

 だからといって目立ちたくないといって防護マスクを外せば、肺を害し長期入院は免れない。

 危険が及んでもいいようにと身構えていたが、何も起こらないことに拍子抜けしてしまう。

 だが、それ以上に人々の視線が痛い。彼の怪しい行動に人々は互いに小声で話し合い、時折シオンに視線を合わす。

 時間の経過と共に住民の数は増え、一種の見世物状態になってしまう。

(……きつい)

 身体に突き刺さる視線に耐えつつシオンは調査を開始するが、慣れない状況に体力以上に精神面が疲弊していく。

 これなら植物しか生息していない外界へ赴いて調査を行う方が精神的に楽と考えるが、嘆いたところで状況が良くならないことを知っているのでシオンは諦め耐えることにした。

< 44 / 298 >

この作品をシェア

pagetop