アメット
そのような者達は、ファミリーネームを名乗るのに値しない。
どのような経緯で名乗ることを許されなくなったのかは知らないが、シオンは何とも阿呆な理由が隠されているのではないかと予想する。
階級制度というのは、所詮上の者が下の者を見下し自分の地位を確認する愚かな制度に過ぎない。
といって、シオンもその階級制度の中で生きている。
また、言葉には出さないが相手が敬語を使用せずに話していることが、引っ掛かって仕方がない。
この時点で、やはり階級制度を完璧に抜け出すことは難しいと知り、大なり小なり下部の人間を差別していることは変わりない。
「で、調査は?」
「それが……」
調査を行いたいのは山々だが、肝心の地図が役に立たない。
一体、何年前の地図なのかわからないが、スッカリ建物の位置等が変わってしまっているとセルゲイに話す。
それに対しセルゲイは肩を竦ませ妻を一瞥すると、建物にも寿命があるのでこればかりは仕方がないと返す。
それどころかセルゲイにとって、シオンが古いながらも最下層の地図を持っていることが驚きであった。
てっきりそのような物は存在していないものだと普通は考えるものだが、事実このように存在する。
シオンは上部の暮らす誰かが訪れたのではないかと尋ねるも、セルゲイは知らないという。
シオンのように下っ端の人間が知らない陰の部分が多く存在するのではないか、と考えるのが利口だが、上司も手渡す時に詳しく話してくれなかったので、多分彼も知らないのだろうとシオンは考える。
それに知っていたところで、詳しく話してくれるような人物でもない。
セルゲイ曰く、来ないと思っていた調査が来てくれたので、このまま返すわけにはいかない。
セルゲイは使えない地図の変わりということで、この階層を案内できる人物を紹介すると言い出す。
それに対しシオンは、断ることはしない。
それどころか、有難いという気持ちの方が強かった。
「で、誰がいいか……」
「あの子がいいわ」
「今、何処にいる」
「裏で、仕事をしているわ。多分、もう少しで頼んでいた仕事が終わると思うけど……どうかしら」
「終わったら、頼むか」
セルゲイとエイネールの話からして、案内してくれる人物はこの店で働いている従業員だということがわかるが、どのような人物かそこまでわからないので不安感が付き纏う。
また、言葉の端々から得られた情報から、その人物が女だということは何となく理解できた。