アメット
第一章 閉鎖都市
熱いシャワーが、頭上から大量に降り注ぐ。
それを全身で浴びているのは二十代前半の整った顔立ちの赤毛の男で、シャワーの水圧が苦しいのか何処か苦悶の表情を浮かべていた。
その時、シャワーの音に混じるかたちで携帯電話の着信音が彼の耳に届く。
その音に男は片目を開けつつ利き手を伸ばすと壁に設置されているタッチパネルを弄くりシャワーを止めると、扉の側に掛けてあった清潔なバスタオルを腰に巻きつつシャワールームから出る。
先程から着信音を鳴らし続けている携帯電話が置かれているのは、ロッカーの上段。
男は慣れた手付きでタッチパネルに番号を打ち込みロックを解除するとそれを取り出し、携帯電話を鳴らす相手を確認する。
画面に表示された見慣れた名前に男はフッと笑うと、電話に出た。
『お帰り』
「ああ、何とか」
『大変だったらしいな』
「まさか、途中で強風に襲われるとは……お陰で、散々な目に遭ったよ。まあ、無事だったのが一番か」
『サンプルが飛ばされたとか?』
「聞いたのか?」
『主任が残念がっていた』
「あの場合は、仕方がない」
強風の中で耐え続けるという最悪の出来事を思い出した男は不幸を呪うかのように嘆息して見せるが、自分で言っていたように命を取られず戻って来られたことは幸いといっていい。
男の言い分に相手は苦笑するが、彼の意見に同調するかのように優しい言葉を男に返す。
『で、今は?』
「シャワーを浴びていた」
『あっ! 悪かった』
「いや、もう出る予定だった。で、話の続きは後でいいか? これから報告書を書かないといけない」
『わかっている。じゃあ、後で――』
「了解」
軽い口調と共に男は相手に返事を返すと、通話を切り携帯電話をロッカーの中に置く。
そして腰に巻いてあったバスタオルで全身を拭き水分をある程度吸収させると、ロッカーから私服を取り出しそれに着替えはじめる。
そして男が最後に纏ったのは、彼が科学者だということを証明する白衣。