アメット

 慣れた手付きで機械を弄くっているシオンの手元を、クローリアは感心した表情で眺めている。

 このような機械を見た経験がないのだろうか、時折感心しきったような声音を出す。

 彼女の面白い反応にシオンは思わず噴出すと、これがそんなに珍しい物なのか尋ねていた。

「す、すみません」

「いや、謝ることはないよ。ただ、真剣に見ていたから。こういう物に、興味があるのかな」

「……ちょっと」

「最下層には、ないのかな」

「上に行くことはないので、地図は存在していません。一応、機械類は置かれていますが……」

 クローリアの話では上部の住人から見放されているとはいえ、機械類があるので不自由しない程度の最低限の生活は送れているという。

 しかしそれらの機械は最新鋭の物とはほど遠く、使い古されたものを手に入れそれを直しつつ、何年も使用しているのが最下層の現状。

 彼女の説明によって、最下層の暮らしぶりの一片を知ることができた。

 同時に、彼等に対しての悪いイメージを改めなければいけないと考える。

 所詮、ネット上の情報は自分達が抱いている感情をそのまま書き記したもので、最下層に赴いてその目で確かめた情報ではない。

 最下層の住人について勘違いし、一方的に悪人として仕立て上げていたことを素直にクローリアに伝えると、彼女は寂しそうに俯いてしまう。

 余程抱かれているイメージにショックを受けたのだろう、一言「仕方がありません」と呟き、それ以上の言葉を言おうとはしない。

「最下層に来て思った。そのもの自体を把握しないで、イメージを作り出すのは危険だということを……」

「私も、同じです」

「同じ?」

「ドームの上で暮らしている人は常に威張り散らしていて、恐ろしい人間ばかりだと聞かされていました。普通に相手を騙して、金品を盗んだりと……荒んでいると言われています。ですがシオン様は、そのような人物には見えません。とても優しい方だと、印象を受けました」

「ひ、酷いな」

 まさか最下層の住人からそのように思われているとは予想もしなかったので、今度はシオンが言葉を失う。

 互いに知らないからこそ妄想が新たなる妄想を生み出し、いい加減なイメージを作り上げていく、シオンは正しい情報の提供が大事だということを改めて学んだ。
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