アメット
しかし、提供したところで信じてくれるかどうか怪しい。
最下層の住民に本当のことを話せば信用してくれるだろうが、上の者は固定概念を持ってしまっているので、なかなか改善は難しい。
そう考えるとドームの中で一番真面目な住人は、最下層に暮らしている者達になる。
変に階級制度に囚われていないのが、いいことなのか。
だからといって、すぐに回答を出すのは危険。
最下層の住民と出会ってまだ少ししか経っていないので、表面だけで判断するのは間違っている。
現に、この場所に来る前に調べてきたことが、全部誤りであったのだから。
観察しつつ、回答を出す。
シオンは本来の仕事をこなしながら、最下層の状況についてあれこれと調べてみようと思う。
最初に知りたかったのは、上の者に大気調査の依頼をした方法。
クローリアに尋ねても適切な解答を得られるか保証はなかったが、試しにという雰囲気でその点を聞いてみる。
「連絡とは?」
「誰が、上の者に調査の依頼をしたのか気になって。簡単にエレベーターは使えないだろう?」
「確か、旦那様が連絡をしたと聞きました」
「方法は?」
「メールです」
「メールって、通信環境が整っているのか?」
「全部が全部ではないですが、一部は――」
シオンにとってクローリアの説明は、衝撃的だった。
いや、これもまた最下層という場所から生まれた固定概念のひとつなのだろう。
あれこれと知らないことが多すぎて、精神的に疲れてしまう。
しかし彼女の説明により、ひとつの疑問が解決したのは間違いなかった。
「あの……シオン様?」
「何?」
「上の世界は、華やかなのでしょうか?」
「気になる?」
「荒れている世界とはいえ、立派な物が沢山あると思いまして。 その……違うのでしょうか?」
「荒れてはいないよ」
クローリアは相変わらずシオンが暮らしている場所が荒れている世界と勘違いしているらしく、シオンはその点を訂正していく。
確かに荒んだ心の持ち主がいないわけではないが、高い科学力を終結して造られた街は立派で、特に不自由なく暮らすことができると話す。